私には、着る時には四六時中身につけるジャケットがあります。
春夏モノとしての鮮やかなブルーのヴィンテージモヘアのジャケット。
それから、秋冬物の紡毛ウールの緑のチェックジャケットです。こちらも生地は30年近く前のモノ。
私のことをご存知の方ならよく見かけられたことがあると思います。
これらはよっぽどのことが無ければ日本-イタリアの飛行機の中でも脱がずに着ています。
勿論この2着はどちらも生地がしっかりと重量感のあるものだからこういう着方ができるということもあります。
それでもちゃんとメンテナンスをして、服の休息日も設けた上で着続けています。

本当に日に日に自分に馴染んで行っているのがわかります。
表情もいい感じに力が抜けてきました。
今となっては、体に合わないニットよりも快適です。

表地にある程度の耐久性があれば裏地は後々交換がききます。
ウエスト周り等寸法の増減があってもある程度までは対応できます。
イタリアではこの手の修理は毎日のように持ち込まれています。
修理をしながらでも長い時間をかけて、
まるでジャケットを育てるかのように着こんでいくのがイタリアでの常識です。

そうすると当然服にシワが入っていきます。
脱いで翌日にはとれているシワもあれば、そうではないものもあります。

でも出来ればシワを目の敵のように敬遠しないでください。
もちろん来る日も来る日も同じ服を着て弱らせるのは間違いですし、
生地によってそれぞれ耐久性も違いますけれど、
間に数日の休息日を挟みながら、
きちんと愛情を注いで扱ってあげると服は必ず育ちます。

醜いシワは消えて、良いシワが残る様になってきます。
「良いシワ」とはなにか。
私はいつも人間と同じです、と説明させていただいています。
美しい生き方をされている方は、顔に刻まれたシワも美しく映ります。
これは元気いっぱいの20代にはどうしても真似のできない魅力です。
つまり完成直後の魅力とは違う魅力が、付き合い方次第で産まれてきます。

この「良いシワ」を蓄えるには時間と愛情が必要不可欠です。
私が、昔からの手間のかかる作りに拘って手作りをしているのは、ただひたすらこのためです。
縫い上がった今日、手のニオイを感じるためだけにしているのではありません。
また、単なる「手のぬくもり」という情緒論に終始するつもりもありません。

10年後、20年後、ちゃんと服があるべき姿を崩さず留めていられる様に一針ずつ刺していく訳です。
永く服を愛して頂いていつか、
お客様の心にもしっくり馴染んで、全く違和感を感じない、
本当のSecond Skinと感じて頂ける様に。
そうしてまるで自分の皮膚の様に馴染んだジャケットを着た男性が
もっと日本に増えてくれば、日本の街中の景色が変わるだろうと思います。

気難しく英国趣味に走らなくても、無理してイタリアの伊達男を気取らなくても、
その人らしいその人だけの装いになるはずです。
それが私の願いです。

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